習作「現金」
ある夜中、おれはある目的で奴に会いに行く。
そう遠くない距離、
いつもの場所で奴はのん気に突っ立てやがった。
「いつ見ても、金を恵んで貰いたさそうにしてんなぁ」
返事はなく、また微動だにもしない。
おれとしては、さっさと目的を済ませたいので、
財布の中の小銭を幾ばくか施してやることにした。
するとどうだ!
途端に顔色を変えやがった。
おれは半ば呆れながらも、目的であるブツを受け取った。
その際、「ありがとうございます」と
血が通っていねえ奴特有の抑揚のない声で
礼を言われた気がするが、
おれは、その付け焼刃加減にうんざりし、
返事もいわずにその場を後にした。
帰った後、取引中のことを思い返していると、
おれの脳裏にある単語がよぎったため、
無意識的に口に出していた。
「“節電中”か。」